キツツキの穴

日々つついた穴を埋めたり、のぞいたり、もっと深く大きくしてゆく穴掘りメモ。

最後のフイルム

あの島に住んでいた時の私が撮った、最後の写真を現像に出した。
学生の頃から使っていたカメラ、父のお下がりのNikomat。
クリーニングやメンテナンスに出しはしていたが、フイルムのふたが緩んでテープで止めながら使っていた。
全くの素人で、詳しかった人にならいながら露出やシャッター速度、ピントを合わすのがうまくいったりいかなかったり、まぐれと失敗を繰り返しながらたくさん写真を撮ってきた。
重くても、どこへ行くのもこのカメラだった。

夏の子らを写した姿が映っていた。
玄関で新聞を敷いて、画用紙を広げている。
絵具をいっぱい筆に付けてこねくり回している、お気に入りの長靴をはいた一歳の次女。
とってもリラックスした顔で、カメラを向ける私を見る長女6歳。
スタンプしているレンコンやスターフルーツ、ピーマンの断面に絵具がついて転がっている。
私が好きだった玄関、レースの白いカーテン、子らの描いた絵が飾ってある壁。

やっと、何年もかかって、カメラの中から取り出せずにいたフイルムの中の子らを迎えに行った。
こんなにかわいかったんだな。
こんなに幸せだったのだなあ。