棕櫚のほうき
かつて家だった場所は、今や人が住むていをなしていなかった。
ゴミ屋敷。
廃墟。
すべてが曇っている。
とても寂しい。
開けたい引き出しもあったが、荷物に阻まれ、
何かを探すという気分には全くならなかった。
もし、見つけたとしても
何度洗っても使おうとは思えなかった。
庭木も伸び放題。
野菜を育っていた畑も、隣家をつなぐ境も草が伸びていた。
風、雨、亜熱帯の湿度、ネズミなどの害獣の被害。
唯一の嫁入り道具の食器棚の大きな傷、美しい青色の引き出しはひび割れて歪んで
痛ましかった。5年、私の手を離れただけが。
その色彩をなくした家は、
私がどれほどの時間とエネルギーを注いでいたかを思い知らせた。
もう、ここには私の何も残ってはいないとこれ以上ないほどに見た。
ただ、唯一、私のために持ち出したのは棕櫚のほうき。
100年でも使えると三条の橋のたもとの店で買った棕櫚のほうき。
100年私たちの家を掃くつもりだったほうき。
私が、毎朝毎夕家中を掃いていたほうき。
これを持ち帰った気持ち、私だけのもの。