キツツキの穴

日々つついた穴を埋めたり、のぞいたり、もっと深く大きくしてゆく穴掘りメモ。

傷を映す

もう一昨年のことになるけれど、宇治のT病院の産後のアロマトリートメントサービスのスタッフだった頃、そのトリートメントルームに飾りたいなと銅版画の作品を作った。
子を産み落として間もない産婦の喜びや誇らしさ、不安や疲れやいろんなものが持ち込まれる部屋だった。
その部屋の一角に飾れたらなあと、10年以上ぶりに手にしたニードルで銅板に傷をつけ、腐食させて、インクが詰められ、拭き取られ、プレスされて出てきた私の作品。

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あまりに個人的で悲しい作品だった。
これは飾ることはできないし、自分でももう見たくないと思った。
我が子に乳を与える母子を守り抱きしめてほしい夫の姿は描くことが出来ずに黒く塗りつぶしてしまったのだった。
どう思いだそうとしても、守ってもらいたかった人も、時も、事も、思い出せなかった。
しょうがなかった。
そんな絵になってしまうことが。
とても、かなしい。