キツツキの穴

日々つついた穴を埋めたり、のぞいたり、もっと深く大きくしてゆく穴掘りメモ。

祭り

子たちを連れて家を出るまで住んでいた集落には、
無形文化財に指定された古くからの祭りがあった。
家の前の道を降りて行ったいつもの見慣れた浜辺が祭りの場になる。
その日のために長い時間をかけて食材や、船をこぐ練習や、舞の練習やたくさんの準備をする。
大人から子供まで。
小さな子供も。
男の子も衣装を着て、木の棒を振り回す。
砂浜で棒打ちを披露する。
幼い子はその姿だけであ可愛らしく、大きくなるにつれ勇ましい。
女の子は、面をつけて化した神様につく稚児の役があった。
舞の披露もある。
婦人会の女たちも舞う人、客をもてなす人など、集落をあげての祭り。

私はそこに住んで一度も祭りに役立ったことがなかった。
妊娠出産、乳児期で手伝いにもならなかった。
夏の繁忙期、自営の家業の仕事に私が専念できるようにと両親が来て子守や家事をしてくれていたが、この祭りの時にも頼めばよかったのか。
祭りに参加できない、しない者は、祭りの後公民館で催されるお疲れ様会への参加権もない。
折りの弁当もなければ、席もない。
手弁当で参加してもむなしく居心地悪いだけだ。
私と子らは早々と帰ったものだ。

その集落に住むとき、元夫は
「自分の身は自分で守れ」
と、私に言った。
確かに、どんどん敵は増えていった。
私たちは、そこになじめなかった。

夫から逃げ、その集落に貢献できるまで頑張れなかった自分をいなかったことにした。

今住んでいる宇治で、田楽祭りに子らは3年目の出演だ。
今頃、あの集落でも、祭りの練習や準備に毎日忙しいはずだ。
あのまま住んでいれば、あの砂浜で祭りに出ていたであろうことを宇治でやっているなんて。