キツツキの穴

日々つついた穴を埋めたり、のぞいたり、もっと深く大きくしてゆく穴掘りメモ。

下保先生

日本画家の下保 昭先生が、7日亡くなったという訃報を新聞で知った。
四半世紀前、私が美術短大の学生だった頃、初めてお会いして声をかけていただいた。
その時、夕焼け空に電線が連なっている絵を描いていて、
その電線の最初の一筆を入れるのを怖がっていた。
まだ、絵の中にその線のあるべき強さも黒さも見つけられていなかったのだと思う。
その一筆を入れるのを

まだ入れないか、まだか、まだか・・

と、私の後ろで可笑しそうに、もどかしそうに待ってくださっていた。
名誉教授だったか、年に一度か二度来校されるほどで、めったにお会いできないゴットファザーのような迫力があった。
母校の日本画研究室の私の助手勤務時代、何度か食事会でご一緒させていただいた時も、恐れ多くて近づけなかった。

今、その夕焼けの電線を描いた絵は自宅の階段の壁にかかっている。
やっと、苦しみながら、恥ずかしがりながら描き入れて、
「怖がるな」
と、一本、描き入れてくださった先生とつながった黒い線がその絵の上にある。
私の大事な絵。

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