キツツキの穴

日々つついた穴を埋めたり、のぞいたり、もっと深く大きくしてゆく穴掘りメモ。

あの家

テレビの番組で、「幸せ!ボンビーガール」というのを見ても
全く驚かない生活をしていた。

「こんなお家、よう住むな~」
といわれるような家に住んでいた。

快適とは言えないが、気候の良い季節や天気のいい日は
それなりに解放感もあり、清潔に保つことに心を砕き、
危険を排除し、気持ち良く過ごせることを心掛けていた。

が、北風が吹き始めると隙間風とはいいがたい、トタンと、ブロックのバラック小屋のようなその住まいは凍えそうだった。
シャワー室とトイレは半屋外といっていい土間で、
その縁の下からは、シャワー中に蛇がはい出してきて
裸で外に飛び出したこともあった。
特に大潮の日はオカガニが、その土間に迷い込んでカサガサしていた。


戸棚や、隅の方にはヤモリの卵が産み付けられていて、いつの間にやら孵化して
抜け殻になった卵のかけらが残っていて、どんな小さな子が生まれたか見たことはなかった。
うっかりヤモリの糞を踏んでしまうのは嫌だった。

換気扇の羽の隙間や、冷暖房機の室外機のホースからねずみも侵入してきて
その気配に夜中目を覚ますと、きまって暗闇にその姿を見つけ目があってしまった。

海砂をたくさん混ぜられたコンクリートの壁からは、台風や大雨の時は
水が染み入ってきて水たまりを作るほどだった。

断熱材も入っていないその建物は暑くて、極寒だった。
冬の入浴の後、脱衣所なんかないその濡れた体で広い廊下を
猛ダッシュでふすま一枚で風を遮っている生活スペースへ逃げ走った。
その暴風をふすまを破られまじと押し続けた台風の夜もあった。

その家に住むことを決めて、その古く、また長く無人で空き家だった場所を直しながら、その不便さや、広いだけが取り柄のその家を少しずつ家として、仕事場所として育てていくことは、夢をかなえていくことであり、生活だった。

貧乏は苦しかったが、夢や生活が形になっていく、家族が増えたその場所は生きた実感がある。
貧乏は、期間限定だから我慢もできたし、楽しめた。
ずっと、一年中太陽と、あたたかさがあったなら、まだ住んでいたかもしれない。
私の分身のような見えない私が、まだそこにいる。